EVや定置用蓄電システムの分野で、LFP(リン酸鉄リチウム)電池のシェアが拡大しています。この流れは、ブラックマスリサイクル事業が本来何によって収益を上げているのかを、改めて問い直すきっかけになっています。NMCやNCA系のセルと異なり、LFPセルにはコバルトもニッケルも含まれていません。2026年に発表された学術研究では、LFPパックはそのまま回収するよりも、セカンドライフ用途に回した方が採算性で上回るケースが多いと報告されています。背景にあるのは、LFPの長いサイクル寿命と、回収できる金属そのものの価値が低いという2つの要因です。
1. ブラックマスの価値を支えているのは、ほぼリチウムだけ
LFPブラックマスを技術的に分析すると、この価値の偏りがはっきりと見えてきます。回収して意味のある価値を持つ成分は、実質的にリチウムだけです。鉄とリン酸が質量の大半を占めるとはいえ、現状の回収プロセスではほとんど値がつきません。つまりLFPのリサイクル事業者は、ニッケルやコバルトも回収できるNMC処理事業者と違い、たった一つの価値の柱に頼らざるを得ない立場にあります。
| 成分 | NMC / NCA | LFP |
|---|---|---|
| コバルト | 含有 — 大きな価値 | なし |
| ニッケル | 含有 — 大きな価値 | なし |
| リチウム | 含有 — 価値ドライバーの一つ | 主要な価値ドライバー |
| 鉄・リン酸 | — | 質量の大半を占めるが現状価値は低い |
2. ゲートフィーがLFPリサイクルの採算を左右する
業界アナリストの間では、LFPリサイクルの採算性は、回収した金属を売って得られる収益よりも、ゲートフィー(電池の所有者が廃棄処理を委託する際に支払う費用)や、回収を義務付ける規制の方に左右されやすいという見方が広がっています。実際、最近の市場データもこの傾向を裏付けており、LFPのゲートフィーは、より価値の高いNCMスクラップに比べてかなり高い水準で推移しています。
つまりLFPの取扱量が増えるほど、リサイクル事業者は「回収物を売って稼ぐ」よりも「引き取って稼ぐ」形に近づいていく可能性があります。
3. NMCとLFPの混合処理は、まだ解けていない課題
NMCとLFPを同じ処理ラインで扱うことは、2026年4月に公表されたある業界投資家のコメントにもある通り、業界にとって今も解決できていない課題です。価値の高いNMC原料を前提に設計された設備は、LFPにそのまま転用できるとは限らず、原料が混ざることで買い手側の品質管理も難しくなります。
4. それでも市場そのものは伸び続けている
LFP側の採算性が厳しくなる一方で、ブラックマスリサイクル市場全体の見通しは依然として強気です。2026年の複数の市場調査によれば、世界市場の規模はすでに100億ドルを超える水準にあり、2030年代前半までに数倍に拡大すると見込まれています。これを牽引しているのは、中国を中心にLFPの取扱量そのものが急速に増えていることです。
LFPの拡大は、ブラックマスリサイクルが「何に対して報われるべきか」という前提そのものを変えつつあります。当社では、ブラックマスをひとくくりのコモディティとして扱うのではなく、化学組成ごとに価格や仕向け先を見極めるお手伝いをしています。LFP比率の高いロットを、NMCを前提とした経済性に当てはめて評価するのではなく、実際の価値に見合った買い手・処理方法へとつなげていきます。
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